【スピッツ】チェリー
春斗は、あの日と同じ道を歩いていた。
曲がりくねった坂道。
夕陽が差し込むたび、影が長く伸びて、胸の奥にしまっていた記憶をそっと引きずり出す。
陽菜と最後に会ったのは、一年前の春だった。
「未来なんて怖くないよ」
そう笑った陽菜の声は、今でも耳の奥に残っている。
あのときの彼女は、産まれたての太陽みたいに眩しくて、春斗はただ、その光に手を伸ばすことしかできなかった。
けれど、未来はふたりを別々のところへ連れていった。
春斗は、ポケットの中の古い手紙を握りしめる。
震える手で書いた、拙い言葉。
「こんなの捨てていいよ」なんて強がったくせに、
本当は、陽菜の手の中でずっと生きていてほしかった。
風が吹く。
春の匂いが混じった、少し冷たい風。
頬に触れた瞬間、涙がこぼれそうになる。
公園に着くと、ブランコがひとつだけ揺れていた。
誰もいないのに、まるで誰かが座っていたみたいに。
「……陽菜」
名前を呼んだ瞬間、背後から、そっと足音がした。
振り向くと、そこに陽菜が立っていた。
ライムグリーンのリブニットのセーターが、夕陽に透けて、まるで水彩画の中から抜け出してきたみたいだった。
「久しぶり、春斗」
その声を聞いただけで、胸が痛いほど甘くなる。
会いたかった。
ずっと、ずっと。
「ここに来れば、春斗に会える気がしたの」
陽菜は少し照れたように笑った。
その笑顔は、あの日と同じで、でも少しだけ大人びていた。
春斗は、言葉を探すように息を吸った。
「……俺、ずっと後悔してた。あのとき、ちゃんと言えなかったこと」
陽菜は静かに目を伏せる。
「うん。私も」
沈黙が落ちる。
でも、その沈黙は痛みではなく、ふたりをそっと包む“余白”のようだった。
「陽菜」
春斗は一歩近づいた。
「もう一度……一緒に歩きたい。未来がどんなに騒がしくても、君となら怖くない」
陽菜は驚いたように目を見開き、次の瞬間、涙をこぼしながら笑った。
「私も……春斗となら、どこへでも行ける気がする」
夕暮れの風が、ふたりの間を優しく通り抜ける。
花びらが舞い、光が揺れ、まるで世界がふたりを祝福しているみたいだった。
春斗はそっと陽菜の手を握った。
その温度だけで、胸の奥が甘くしびれる。
「またここから始めよう」
「うん……また、この場所から」
ふたりの影が重なり、春の空に溶けていった。
ーほいたらねー
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スピッツ / チェリー
君を忘れない 曲がりくねった道を行く
産まれたての太陽と 夢を渡る黄色い砂
二度と戻れない くすぐり合って転げた日
きっと 想像した以上に 騒がしい未来が僕を待ってる
「愛してる」の響きだけで 強くなれる気がしたよ
ささやかな喜びを つぶれるほど抱きしめて
こぼれそうな思い 汚れた手で書き上げた
あの手紙はすぐにでも捨てて欲しいと言ったのに
少しだけ眠い 冷たい水でこじあけて
今 せかされるように 飛ばされるように 通り過ぎてく
「愛してる」の響きだけで 強くなれる気がしたよ
いつかまた この場所で 君とめぐり会いたい
どんなに歩いても たどりつけない 心の雪でぬれた頬
悪魔のふりして 切り裂いた歌を 春の風に舞う花びらに変えて
君を忘れない 曲がりくねった道を行く
きっと 想像した以上に 騒がしい未来が僕を待ってる
「愛してる」の響きだけで 強くなれる気がしたよ
ささやかな喜びを つぶれるほど抱きしめて
ズルしても真面目にも生きてゆける気がしたよ
いつかまた この場所で 君とめぐり会いたい
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