大滝詠一 【恋するカレン】
キャンドルの炎がゆらめき、
政樹のグラスの氷が「カラン」と沈んだ。
(やっぱり……俺じゃダメなんだな)
視線の先では、カレンがユウジに抱かれて踊っている。
その顔は楽しそうで、触れれば溶けてしまいそうなほど柔らかい。
「政樹、平気か?」
たつやが肩を叩く。
「平気だよ。ただ……暑いだけさ」
「おまえ、嘘つくの下手すぎな」
たつやの茶化しも耳に入らない。
――その瞬間、カレンがこちらを見た。
一秒にも満たない。
でも政樹は確かに気がついた。
カレンのまばたきの奥に、
“何か言いたげな迷い” が揺れたことに。
(やっぱり……君も、気づいてたんじゃないのか)
けれどカレンはまぶたを伏せ、
まるでその気持ちを自分で否定するように、
ユウジの肩にまた頬を寄せた。
その仕草は甘さよりも――
逃げるような影 があった。
たつやが「ユウジやるな」と呟く中、
政樹は静かに氷を噛んだ。
(そうか……君は“安心できるもの”を選んだんだ)
政樹は気づく。
自分がカレンに向けていたものは、
見返りを求めない、かたちのない優しさ。
プレゼントでも肩書でもない、
ただただ“そばにいたい”だけの気持ち。
――けれど、そんなものは光らない。
――手に取れない“愛情”より、
今夜君が選んだのは、
誰の目にもわかる“魅力”だった。
(優しさなんて……かたちのないもの。
君はそんな曖昧なものより、
ユウジのわかりやすい魅力を選んだんだな)
胸が重く沈む。
「たつや、俺もう帰るわ」
「え? カレンちゃんに挨拶もしなくて?」
「いいよ。俺の優しさなんて、誰にも見えないし」
たつやが言葉を失う。
政樹は背を向けて、静かに歩き出した。
会場の奥から、カレンの笑い声が聞こえる。
あの声に何度救われたか、誰も知らない。
夜風が頬をなでた瞬間、
彼は心の中で、ふっと呟いた。
(……振られたぼくより、哀しい女だよ。君は)
強がりにも聞こえる。
でもそれは本音でもあった。
――かたちのある“魅力”を選ぶという弱さ。
――かたちのない“優しさ”を信じる勇気を持てなかった痛み。
――そして、その選択がいつか彼女を苦しめる未来を、
政樹は誰よりも知っている。
だからこそ、
哀しいのは自分ではなく――カレンの方だった。
ーほいたらねー
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【恋するカレン】 大滝詠一
キャンドルを暗くして
スローな曲がかかると
君が彼の背中に
手をまわし踊るのを壁で見ていたよ
振られるとわかるまで
何秒かかっただろう
誰か話しかけても
ぼくの眼は上の空 君に釘づけさ
Oh! KAREN 浜辺の濡れた砂の上で
抱きあう幻を笑え
Oh! KAREN 淋しい片思いだけが
今も淋しいこの胸を責めるよ
ふと眼があうたびせつない色の
まぶたを伏せて頬は彼の肩の上
かたちのない優しさ
それよりも見せかけの魅力を選んだ
OH! KAREN 誰より君を愛していた
心を知りながら捨てる
OH! KAREN 振られたぼくより哀しい
そうさ哀しい女だね君は…