心もよう 井上陽水

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今日は大好きだった
井上陽水の「心もよう」を
お送りします


心もよう 井上陽水

封筒の裏に、ひとことだけ書かれていた。
「お元気ですか。わたしは元気です。」

それは、五年ぶりに彼女から届いた手紙だった。
封を切ると、ふわりと懐かしいインクの匂いがする。
少し滲んだ字は、あの頃のまま、彼女の癖のある筆跡だった。

さみしさのつれづれに、
手紙をしたためています。
あなたに。


冒頭のその一文で、胸が締めつけられた。
遠い都会へ行ったきり、連絡も途絶えていた彼女。
何度も手紙を書こうとして、出せずに終わっていたんだなと。

青い便箋には、当時の空気がそのまま閉じ込められている。
黒いインクで綴られた言葉の一つひとつが、やわらかく心に刺さる。

黒いインクがきれいでしょう。
青いびんせんが悲しいでしょう。


あの頃、僕たちは十九歳だった。
駅のベンチで、彼女がギターを抱えて歌った。
「誕生日おめでとう」
――そう言って笑った顔を、今も思い出す。

でも、手紙にはこう続いていた。

あなたの笑い顔を不思議なことに、
今日は覚えていました。
十九才になったお祝いに作った歌も、
もう忘れたのに。


彼女はきっと、都会のどこかで一人で暮らしていたのだろう。
曇りガラスの向こうに雨が降る小さな部屋。
あの青い便箋の上に、言葉を置いては消し、書いてはため息をついたんだなと。

遠くで暮らすことが、
二人に良くないのはわかっていました。
くもりガラスの外は雨。
わたしの気持ちは書けません。

彼女は、ほんとうに書けなかったのだと思う。
愛している、会いたい、忘れられない――
そのどれもが、彼女にとってはもう過去の言葉だったから。

代わりに、「さみしさだけ」を詰めて送った。
それが、彼女の最後の正直さだったのかもしれない。

手紙の終わりには、こう綴られていた。

あざやか色の春はかげろう。
まぶしい夏の光は強く。
秋風のあと、雪が追いかけ、
季節はめぐり、あなたを変える。


読みながら、僕は気づいた。
変わったのは、僕のほうだった。
あの頃の彼女の想いを、若さのせいにして逃げたのは、僕のほうだったと。

窓の外では、静かに雪が降っている。
便箋の文字が、にじむほどに、目が熱くなった。

彼女の「さみしさ」は、いま、ようやく僕に届いた。
五年もかかって――。

手紙を封筒に戻し、僕はそっと引き出しにしまった。
そして、小さくつぶやいた。

「……ありがとう。もう、だいじょうぶだから。」

その夜、夢の中で彼女が笑っていた。
あの十九の春のように。
淡い青の光に包まれて。

ーほいたらねー

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心もよう  井上陽水


さみしさのつれづれに
手紙をしたためています あなたに
黒いインクがきれいでしょう
青いびんせんが悲しいでしょう?!

あなたの笑い顔を不思議なことに
今日は覚えていました
19才になったお祝いに
作った歌も忘れたのに

さみしさだけを手紙につめて
ふるさとにすむあなたに送る
あなたにとって見飽きた文字が
季節の中で埋もれてしまう

遠くで暮らす事が
二人に良くないのはわかっていました
くもりガラスの外は雨
私の気持ちは書けません

さみしさだけを手紙につめて
ふるさとにすむあなたに送る
あなたにとって見飽きた文字が
季節の中で埋もれてしまう

あざやか色の春はかげろう
まぶしい夏の光は強く
秋風の後 雪が追いかけ
季節はめぐり あなたを変える

最後までお読みくださりありがとうございました。
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