【恋】 松山千春

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夜のリビングに、ノブは静かに立っていた。
 机の上には、たたまれた洗濯物と一枚の便箋。
 胸の奥にずっとしまっていた言葉を、今こそ出さなければならなかった。

「……ねぇ、タカシ」

 呼びかけに、ソファに腰をかけたタカシが顔を上げる。
 どこか焦点の定まらない目。その姿を、ノブは何年も見守ってきた。

「どうしたんだよ。そんな顔して」

「今日だけは……ちゃんと話させてほしいの」

「話?」

 ノブは小さく息をつき、言葉を選んだ。

「タカシ。私ね、本当はやりたいことがあったの。音楽を続けてほしいって先生にも言われていた。でも、あなたと一緒にいるって決めて、全部諦めたの」

「……知ってる。俺のために色々我慢してきたんだよな」

「ううん、それを責めたいわけじゃないの。あなたを嫌いになったわけでもない。
 でもね……私が自分の道を捨ててまで尽くしたのに、あなた自身が成長しようとしない。いつまでも同じ場所で、酒に逃げて、未来をつかもうとしない」

「そんなこと……俺なりに頑張ってる」

「そう。あなたなりにはね。でも私にはもう、それを待ち続ける力がないの。
 私ね、自分が私じゃなくなっていくのが怖いの。夢を捨てて、あなたに尽くして、それでも何も変わらない毎日に……心が壊れそうなの」

 タカシは立ち上がり、必死に言った。

「俺が変わればいいんだろ? 今からでも、まだ――」

 ノブは静かに首を振る。

「違うの。あなたを嫌いになったわけじゃない。
 でも、好きだからこそ、これ以上は一緒にいられない。……もう無理なの」

「ノブ……」

「ありがとう、タカシ。あなたのおかげで私はずっと『待つ女』でいられた。だけど……私の人生は私のものだから」

 ドアノブに手をかけたノブは、最後に振り返る。

「嫌いじゃないの。だから余計に、ここを出るの」

扉を閉める直前、ノブの胸の奥にひとつの思いがよぎった。

――今度生まれてくるとしたなら、やっぱり女で生まれてみたい。
 でも二度とヘマはしない。
 タカシ、あなたになんかつまずかないわ。

 その決意だけを心に刻み、ノブは静かに夜の街へ歩き出した。

 タカシは何も言えず、彼女の背中をただ見送った。

ーおしまいー

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愛することに疲れたみたい
嫌いになったわけじゃない
部屋の灯はつけてゆくわ
カギはいつものゲタ箱の中

きっと貴方はいつものことと
笑いとばすにちがいない
だけど今度は本気みたい
貴方の顔もちらつかないわ

男はいつも 待たせるだけで
女はいつも 待ちくたびれて
それでもいいと なぐさめていた
それでも恋は恋

多分貴方はいつもの店で
酒を飲んでくだをまいて
洗濯物は机の上に
短い手紙そえておくわ

今度生まれてくるとしたなら
やっぱり女で生まれてみたい
だけど二度とヘマはしない
貴方になんかつまずかないわ

男はいつも 待たせるだけで
女はいつも 待ちくたびれて
それでもいいと なぐさめていた
それでも恋は恋

男はいつも 待たせるだけで
女はいつも 待ちくたびれて
それでもいいと なぐさめていた
それでも恋は恋

それでも恋は恋

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あなた様のこころにささりますように。
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